不定期だが、毎年一回は、店を休みにして、敵情視察に出かけることにしている。
昨今のスイーツ業界は動きがめまぐるしく、つねにアンテナをたてていないと、時代に乗り遅れてしまう。
もちろん、はやりばかりを取り入れるのはよくないとは思う。
だが、はっきりいってしまえば、ジェレミア卿は、あまりにはやりを取り入れなさ過ぎる。
自分の力を過信するところがあるので、下につくものはとても苦労する。
まあ、ある意味、あついかいやすいところもあるのだが…。
それはそうと、今年の敵情視察には、枢木がいてくれて、本当に助かった。
ジェレミア卿は、貴族出身ということもあってか、荷物を持つのをいやがる。
泡立て器より重いものは持たない主義だ、というのが、ジェレミア卿のいい分だが、オーブンの鉄板10枚は、どう考えても、泡立て器より重いと思う。
結局、あの男は、ただのおぼっちゃまなのだ…。
まあ、それはいいとして。
ジェレミア卿はそんなわけで、並ぶのも嫌い、接客にも文句をつける、などの悪癖があるため、敵情視察に二人で出かけていた時は本当に困った。
何度叩いてやろうと思ったことか…。
だが、あんなんでも、一応私の雇い主だから、文句もいえない。
とりあえず、枢木には、時給を三倍にしてやるから、といって、手をうった。
視察したいスイーツショップもチェック済みなので、全ては完璧だった。
まず、最初は、ギンザのアトシア。
その後は、最近、スイーツフロアが一新したプロントンだ。
枢木がジェレミア卿のおもりをしてくれていたおかげで、買い物はとてもスムーズにすんだ。
一応、チェックしていた店は、20件だったが、私が18件、枢木たちが2件という成績だ。
初めてのおもりにして、2件はまずまずだろう。
来年の敵情視察の時にもぜひ、といったら、枢木に早くも断られてしまった。
次は、時給10倍にしないと、ついてこないだろうか??